Ｓｙｎｃｒｏ　 　　　　　〜Overture

夢を見た。 忘れたくても忘れられないあの日のこと。 あいつの足元で、カサッとひとつ音がする。枯葉を踏む音。 カサッ……と、微かにもうひとつ。 浩平は、澄んだ瞳をまっすぐに、私に向けて振り向いた。 小さいときから変わらない、大事なことを言う時にキュッと固く唇をかむクセ。それから、心を決めたように思いきって話し出す。 「おれ、決めた」 心臓が、トクンと小さく音をたてる。 わかってる。 その先は……聞かなくたってわかってる。 「おれ……」 だから、もうわかってるってぱ！ 大きくブンブン頭を振って、力一杯叫んだつもりが言葉にならない。 あの日と同じに、私はほけっ……と、心に何の準備もできないままにあいつを見てる。 ハラハラと……舞い落ちてくるのは、茶色く染まった桜の葉。 夏が終わって・・・確実に秋はここにいて…… 私たち、揃って高校三年生の春を迎えるって信じてた……あの日。 「やっぱ、行くわ。相模高」 「え……？」 「試してみたいんだ。自分が……どこまでやれるのか」 「……」 「ごめん」 ……最後の浩平の一言が、頭の中にこだました。 どうしてよ。 どうしてあんたが謝るわけ？ 自分で決めた事なんでしょ？転校するって。 家を出て、全寮制の学校に陸上やるために転校するって。 おまけにそこは、新幹線で三時間半は裕にかかる所にある学校だ、って。 特待生で行くってコト、前はあんなに嫌がってたのに……。 心の中でつぶやいて、私は黙ってあいつを見た。 浩平が、ごめん、なんて言うこと自体、あいつの出した結論が、どれだけ考え抜かれた中で出されたものかは判ってる。 ……でも。 "それ"は、そこへ行かなきゃ出来ないことなの？ ここにいたって…… 今まで通りここにいたって、やれる事じゃなかったの……？ 智兄ちゃんが眠ってる、ここにいたって……。 ・・・To be continued. 　　　　　　　表紙へ→ copyright （C）twin All rights reserved.