昼休み。
開け放たれた窓からは、すっかり強くなった日差しと湿った風が吹いてくる。
もうすぐ７月・・・。
ピンク色のたらこふりかけごはんを頬張りながら、まっちゃんはちょっとだけ考え込むようなカオをした。
この週末に、一緒に浩平のとこに行ってもらう件。
月のお小遣いをはたいて、貯金を下ろせば、片道の交通費+ホテル代は、何とかもってあげられそうだった。
こっちの事情で付き合ってもらうのに往復出してあげられないのが、ほんとにゴメン！としか言いようがなかったんだけど・・・。
「いいよ」
まっちゃんは、数秒間の間があった後けろりと答えた。
「ほんとに！？」
「他でもないこのみの頼みだもん、ヤとは言えないっしょ？」
「ありがと！まっちゃん」
「森山君は日曜も練習なの？」
「普段は休みらしーけど、８月にはインターハイが始まるし、わかんない」
「そっか。お休みなら観光案内してもらえたのにね」
「・・・どーだかねー。陸上一色の生活だもん。おまけに寮だし。半年たったって何も知らないと思うよ、自分がいる街のコトなんか」
「ふうん。・・・じゃ、ガイドブック買っていこ」
「へ？」
「せっかく行くんだもん、せめておいしいもの食べて来よーよ。放課後、本屋さん寄って行こ♪」
・・・まっちゃんに話してよかった。
うつうつ考えていたあいつとの事が、何だか気軽な小旅行みたいに思えて来る。
「まっちゃん、彼氏とのデートとか約束してたんじゃない？だったらほんっとゴメン！」
「ううん、大丈夫。その日模試なんだよ、学校主催の」
「へーえ」
「何せ超進学校だからね。私が行ってるみたいな予備校レベルじゃ物足りないんじゃないの。本人は、まるで息抜きに来てるみたいだもん」
「ふうん・・・」
「ね、ね、このみのお兄ちゃんも高校、いいとこ行ってたよね？どこだっけ」
「・・・松高」
「すっご。頭も良くて顔も良くて。天は二物を与えてるよね〜」
まっちゃんは、お箸を持ったままウットリしてる。
確かに。
ろくに勉強もしないのに、どーなってんの、っていうのが兄キだった。そして、それは智兄ちゃんも。
「このみも苦労するよねー。デキのよすぎる兄キを持つとさ」
「・・・カンケーないよ、私は私だもん」
「そういえば、森山君もしょっちゅう担任に言われてたっけね、『お前は兄キとは全然違うなあ』とか『少しは見習え』とかさ」
「・・・」
「言ってる方は、もっともだと思っているんだろうけどさ、森山君、かなりムッと来てたと思うよ。誰が何て言ったって、自分は自分なんだしさ」
・・・
『自分は自分なんだしさ』
まっちゃんのその一言が、不意に心に引っかかる。
『試してみたいんだ。自分がどこまでやれるのか』
・・・智兄のいない所で。一人っきりで。
・・・
私は・・・
浩平と智兄ちゃんをそんな風に見てきたつもりはなかった。
浩平は浩平。智兄ちゃんとは違う。
でも・・・
周りの何気ない一言が、浩平を傷つけてた事があったのかも知れない。
何でも出来て、優しくて・・・誰からも頼りにされてた智兄ちゃん。
それが兄キだっていうだけで、浩平っていう人格それだけをストレートに見てはもらえない。
『おれは、決めたから』
・・・昔っから、自己主張の強さは人一倍。
何でも自分一人でやりたがるのが浩平だった。
智兄ちゃんに勝ちたくて、追い越したくて。
・・・
だから、なの？
だから、がんばろうとしているの・・・？
自分は自分なんだ、って。智兄ちゃんとは違うんだ、って。
『このままずっとここにいたって増えるのは思い出だけじゃないか』
私に向かって、言い聞かせるようにそう言った浩平の声を思い出していた。
・・・だとしたら。
こだわってるのは、浩平、あんたの方だよ。
智兄ちゃんはもういない。
いないのに・・・一体何を、どうやって勝つつもりなの？
思い出に。
・・・
・・・To be continued.
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phot by mei of "chikyuya".
