――速い。

スタートダッシュの瞬間からそれを実感させられた。

切れのいいストライド。鋭い腕の振り。

そこから生まれるスピードには、全くと言っていいほどムダがない。

おれは、ほんとにこんなのと……

こんなヤツと、一緒に走ってたのかよ。

全国タイの記録が出た時、周りがあれだけ騒いだ理由。

コーチがおれを呼びつけてまで、おれの覚悟を問いただしたいと思った理由。

やっと全部納得出来た……。

40mの少し手前で、体半分引き離された。

ここで置いてかれるワケには行かない。まだ序盤。ここからだ。ここからが雅巳のトップスピード。

その前に――！

耳元で鳴っていた風が、瞬間何処かへかき消えた。

――

「……ところでさ。お前が勝ったら、監督に頼みに行くって約束だったよな。インターハイに、おれがもう一度出られるように」

「うん」

「じゃあ……おれが勝ったらどうするんだよ」

「心配ないよ。僕が勝つから」

「うるせえ！だったらお前、負けたら千晶にコクるんだぞ」

「えっ！」

「『えっ』じゃねーよ」

「そっ……そんなのダメだよ！陸上と全然関係ないじゃない！」

「それを言うなら、インターハイとおれとの勝負だって関係ないだろ！結局、テメーの自己満足のためだけじゃんか」

「そうだよ。僕はただ――森山君と本気で勝負したかったから言っただけだよ。インターハイなんか、今の僕にはどうでもいいんだ」

「何……？」

おれは、雅巳の顔を見直した。――

インターハイなんかどうでもいい。

今だ。この瞬間に勝つコトだ。

誰のためとか……

何のためとか……

そんなコトはどうでもいい。

この瞬間のためだけに、おれは確かにここにいて……

力一杯歯を食いしばる。

あと少し。もうあと少しが縮まらない。

雅巳、てめぇ――

今まで一度もこんな走り、おれに見せたコトなかったじゃんかよっ！

残りあと20m足らず。後半のラストスパートだ。差が開いてく。少しずつ。

必死の思いで、おれは数m先のゴールを見据えた。

……

・・・To be continued.


　　　　　　　　　　

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