「さいてー！あの女、そんなコト言ってたの？！」

浩平たちとの待ち合わせ場所になってる駅の中。

広場のベンチに、私はまっちゃんと並んで座った。

今日は四人でささやかながら、インターハイの打ち上げをすることになっていた。

約束の時間までもうわずか。

向こうに見える改札は、浩平たちの寮と学校へ行く電車の乗り場入り口だ。見慣れた黄色いカステラ電車が丁度ホームに入った所……。

昨日榎本さんに会ったって話をすると、まっちゃんは大いに憤慨した。

「なによー、余裕ぶっちゃって。『楽しみにしてるね』って、めちゃくちゃイヤミじゃん。いくら遠征に一緒に出かけて行くからってさぁ」

「えっ？！そうなの？」

「……そうなの、って――」

「……」

「こらこら。何今更ショック受けてんのよ！」

「受けてないよ！ショックなんか！」

「森山君、電話嫌いだったしねー。あんた達、遠恋でケータイ使えないってのはハンデありすぎだよ、いくらなんでも」

そうか……。

私ってばうっかりしてた。

昨日の榎本さんの言葉には、そういう意味もあったんだ。

だから私にあんなこと――

『これからはほんとに会えなくなるわよ。何しろ日本にいなくなっちゃうんだから』

『正直、“このみちゃん”にしては、よく決心したなって思ったんだ』

……

あの人――

あいつとおんなじ学校に進学するつもりなんだろか……

「……あ。来た来た」

まっちゃんに肩をつつかれて我に返った。

丁度今改札を抜けて来たところ。萩原君が私たちに気がついた。

隣の浩平は、特別笑顔になるでもない。

全然、って言っていいくらいのいつもの表情。

インターハイのスタートラインにいた時の方がまだ少し、緊張とか集中とか……

そんなあいつの思いがいくらかだけでも、感じ取れたような気さえする。

期待しちゃいけないのは判ってるけど――

せめてちょこっとくらいはさ……

久しぶりのデートだなとか、思ってくれてないのかな……。

「ごめんね。こっちから誘ったのに遅くなっちゃって」

萩原君はいつも優しい。

「ううん。私たちも今来たとこ。それにしても……焼けたねー！二人とも」

まっちゃんが浩平と萩原君を見て声を上げる。

それもその筈。まっちゃんは二人とは、夏休み前に会ったきりだったっけ……。

私は改めて浩平の顔を上目遣いに小さく見上げた。

「ちょっと買い物してたんだ」

「買い物？」

「森山君がどうしても、っていうものがあってね。いてっ」

「うるさいんだよ、お前はいちいち」

「へぇ、珍しい。何よ、買物って」

「……いいだろ、別に何だって」

浩平は、そこで初めて私を見た。私は慌てて目を伏せる。

……何よ。

何なのよ。

どうして私が慌てなくっちゃいけないのよ。

「――じゃあ、また後でね。このみ」

「えっ？『後でね』って……」

「とーぜんでしょ。このバアイ」

「久しぶりのデート、ゆっくり楽しんで来てよ」

まっちゃんの声に、萩原君もにっこり笑う。

「ど、どうして？みんなで一緒に遊ぶんじゃないの？」

「……あんたね」

「一応、気を利かせてるつもりなんだけどな。いてっ！」

浩平は今度は萩原君の後頭部に、さっきより強い肘鉄を落とした。

まっちゃんと萩原君は、まるで以前からのカップルのように楽しそうに人波に流れて消えてしまった。

「松山って……彼氏いるんだろ」

浩平がつぶやく。

「うん……昨日もおみやげ買いに行ってたよ。心配ないとは思うんだけど。そう言えば、萩原君も好きな人いるんじゃなかったっけ？」

「そうそう」

浩平はにやりとして見せた。

「榎本千晶」

「えっ！」

「片思いなんだって。中学の時から六年間。結構いじらしいとこあるんだぜ」

「そうだったんだ……」

無関心を装いつつも、自然とにんまり口元が緩む。

「……なんでお前が嬉しそうにするんだよ」

「そっ……そんなことないよ！」

「で……どうする？何処か行きたいとことかあんのか」

「ううん。まさかこんなんなるとは思ってなかったし」

……まあな、と浩平もつぶやいて、

「特にないんだったら、ちょっとつきあわねー？」

「どこへ？」

浩平はおもむろに、萩原君とまっちゃんが流れた方とは逆に向かって歩き始めた。

・・・To be continued.


　　　　　　　　　　


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