――

「もしもし？…並木先生？」

「…」

「並木哲史先生でしょ？見ましたよ、春の、東京での写真展。…綺麗ですねぇ、水納島。俺も前に行った事あるんです。懐かしかったなぁ、ものすごく」

「…誰だ？あんた」

「またまた…。お嬢さんから聞いてるでしょ…？お目付役なんだから。時間の無駄になるやりとりはやめましょうよ、この場合」

――

「水中カメラマンのあんたが、どうしてこんな役回りを引き受けようと思ったのかは知らないけど…それがあの人のヤリ方だから。苦労するね、お互いに。もう連絡はしたのかな？」

「…」

「まだなんだ。…当然か。自分の落ち度がはっきりしちゃうだけだしね。後悔してる？いかに自分が甘かったか」

「…一体、何の話をしてるんだ？」

「珊瑚の産卵は見れました？」

「…」

「拓が残念がってたよ。けどね、彼、もうしばらくここにいたいんだってさ。与那国の夕陽もまんざらでもなかったみたいでね。…構いませんよね？少なくとも、あんた達といるよりは精神衛生上いいと思うし」

「おい！」

「夜も遅いし…また連絡します。出来れば…今度は、本人から電話させますね。そうしないと、俺が犯罪者みたいになっちゃうから。このやりとりが録音とかされててさ、指名手配なんてされちゃったら困るし。…やりかねないでしょ、あのお嬢さんの頭の中は」

「…おいっ！ちょっと待て…」

「拓は自分の意思でここへ来た。その事だけは勘違いのないように。――あ…そうそう。ちなみにこれ…彼のケータイでかけてるからね。履歴見たって無駄だと思います。じゃあ、また。機会があればそのうちに」

――

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