Ｓｙｎｃｒｏ　 〜第六章　§4

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『自分で自分を守るって、生きるのに大切な気持ちだからね』 …   家へ向かって歩きながら、三村さんの言葉を頭の中で繰り返してた。 お兄ちゃんは… 智兄ちゃんから、自分の家族がばらばらだっていう事を聞かされた、ただ一人の人だった。 でも。 智兄ちゃんはお兄ちゃんにそれを何とかしてほしくって―― 自分を助けてほしくって――打ち明けたのではなかったと思う。 ただ、聞いてほしかった。 特別な答えとか… 何かが欲しかったわけじゃなく…ただ、聞いて、受け止めて―― それだけを望んでたんだと思う。ううん。もしかしたらそれさえも… 望む事なんて何にもなくて―― まるで、今日の学校での出来事を思い返して話すみたいな、そんな気持ちだったかも知れない。   けれど、お兄ちゃんには違ってた。 それが自分だけだったから… 智兄ちゃんの、その時の思いを知っていたのが唯一自分だけだったから… あんな事になる前に―― 事故そのものは起こるべくして起こったのだとしても、全てを聞かされていた自分には、何かが出来たんじゃなかったか―― 智兄ちゃんを止める方法が…何かあったんじゃなかったか？ …そんな思いがあったと思う。今でもずっと。 そして、祥子おばちゃんもきっと。 だから、あの時――   『おれは、認めないからな。智がいたら…もしも、あいつが生きてたら、絶対そう言ったに決まってる。あいつ一人に、あんなに辛い思いをさせて、その上で自分だけ幸せになろうだなんて、おれは絶対認めないからなっ！』   あの言葉に込めた意味。 お兄ちゃんは―― お兄ちゃんが…祥子おばちゃんに求めてたのは、本当は――     マンションのエレベーターが止まった。 ドアの開く音にはっとして…うながされるように足を踏み出す。 廊下に出るなり、たまらなくなって携帯電話を取り出した。 返って来ない事の方が圧倒的に多い兄キへのメール。 でも今は、私たちを繋いでくれるのはこれしかないとその時思えた。   『明日。何時に着くか絶対教えて！』   夢中でそれだけ打ち込んで… 『待ってるからね。みんなで本っ気で待ってるんだからね！』 …   何がこんなに不安にさせるの…。 傍にいないと―― 一緒にいないと―― まるで何かに急かされてるみたいに、どんどんどんどん頭の中が不安だらけになって行く。   『不自然ですよ。好きなのに離れたまんまだなんて』 ――   そう、なのかな。 浩平にしても、兄キにしても、それが大切な人だから… 一緒にいないとダメ、なのかな。 これじゃ今までと変わらない。 もしも… あいつの傍に行くって決めれば――こんな思いはないのかな。 ずっと傍にいてほしい人。ずっと傍にいたい人。 誰にももう、いなくならないでいてほしい。それだけを今すぐ約束してほしい。 …鳴らないケータイ。 真夜中だろうと何だろうと、あいつに電話したくなる。 明日になれば…会えるって判ってる筈の存在なのに。     「ただいま」 玄関のドアを引き開けた。 ふと見ると、見覚えのない皮のクツがそこにある。 男の人。誰だろう。 リビングから聞こえるのはお母さんと、何処かで聞いた気もする静かな声。   ――「お帰り。このみ」 迎えてくれたお母さんの前には、ネクタイに…スーツ姿の男の人。  顔を見た時、あっと思った。 「杉崎、先生…？」 祥子おばちゃんの婚約者。 こないだは、細いシルバーメタルのめがねだったけど、今はそれを黒っぽい縁に変えていた。それのせいかな…こないだよりも、ちょっだけれど若く見える。 ううん。本当は… 祥子おばちゃんより年下だったんだもんね。そう見えるのが当たり前なんだ。   「こんばんは」 小児科の先生らしい柔らかな声。 杉崎先生はソファから慌てて腰を浮かすと、照れくさそうに私に頭を下げた。 …  ･･･To be continued. 　　　　　　　　　　　　　　　　　　 Copyright (C) 2004 kchoco All right reserved.